世界中のママの育児を“おしゃべり”で支援する助産師・西川直子さん
駐妻のキャリアについて、気になる人にインタビュー。
第12回は、日本で助産師をしていた西川直子さん。タイ、イギリス、スペインとご主人の駐在に合わせて育児中ママのための「お茶会」や助産師など専門職が集まる会を開催されています。最近は「せかままcafé」といって、オンラインで世界のママとつなげる取り組みも。活動に込められた想いをお伺いしました。
ーこんにちは!まずは簡単な自己紹介をお願いできますか?
こんにちは、西川直子です。私は30歳で助産師になりました。大学の就活中に、漠然と母のように看護師になりたいと思い始め、まずは社会人になってお金を貯めようと、大学卒業後はいったん人材派遣会社に就職しました。そして、26歳の時に大学に入りなおし、「助産師」「保健師」「看護師」の免許を取得しました。ちなみに、2回目の大学は1回目の大学の時から付き合っていた彼(現夫)が住んでいた場所に、たまたま追いかけるようなかたちで入学したのですが、学生寮から出たかった私は2年生の時に「結婚したほうが健康で経済的だ」と言い、メリットを二人でエクセルにまとめて計算。在学中に結婚しました。
そして大学卒業後、病院で助産師として3年間勤務しました。助産師として働いている頃から、夫の海外駐在の話は出ていたので、長男の出産を機に退職。母子訪問の仕事を数カ月した後、夫の駐在に伴ってタイのバンコクへ引っ越しました。次男はタイの病院で出産しました。
私の活動の1つの育児中ママのためのこの「お茶会」は、長男を出産後に心身ともに私の支えになった子育て支援センターのような役割ができないかと思って始めたものです。「お茶会」と同時に、日本人会で母親学級や母乳相談なども行いました。タイに5年滞在して、その後イギリスに1年、そして今はスペインに住んでいます。
ー「お茶会」はボランティアとして活動されているそうですね。
はい、ボランティアです。ただ「お茶会」で出すお茶やお菓子代として最初は50バーツ(150円)ほど実費分の参加料をいただいていました。途中からあまりにも赤字だったので、100バーツ(300円)にしましたが。初対面のママが集まる会なので、やはりお茶やお菓子があったほうが和みやすいんです。
ボランティアというかたちにこだわったのは、やはり駐妻だからですね。駐妻が現地でビジネスをするのは、税の問題、ビザの問題、夫の会社の問題などいろいろと乗り越えなければいけない壁があります。私も夫に、駐在の間はボランティアにしてほしいと言われているので、ボランティアでできる活動を模索して実施しています。
ー最近は「お茶会」だけでなく、さまざまな領域に活動を広げられているようですが、詳しく教えてください。
2017年9月からはインターネットで無料でおしゃべりできる「世界のママが集まるオンラインカフェ(せかままCafé)」を始めました。オンラインで世界中のママ同士がおしゃべりできる“場”です。「ひとりっこママ」「2人目、3人目が産まれたばかりのママ」などテーマを決めて、私がファシリテーターを務めます。ママ同士がおしゃべりをすることによって、オンラインで日本の子育て支援センターのような役割を果たせればと思っています。
そして今、スペインのマドリードの自宅での「お茶会」“まどりっこ おしゃべり会”も開催しています。さらに、英、西、仏など7カ国にいる日本人の助産師やドゥーラ(出産に立ち会ったり、産後のお世話をする専門家)が月に1回「無痛分娩」「会陰切開」などテーマを決めて、インターネット上で行う勉強会「SOIS(世界のお産、育児を支える専門職の会)」でも、名簿管理といった事務係も担当しています。
ーボランティア活動の幅をどんどん広げられているんですね。そもそもこのような活動を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
長男を出産した後、「吸わせれば母乳は出ますよ」と伝え続けてきた助産師だったのに、母乳が出なくて本当にショックでした。家にいれば子どもは泣くし、家事も何もできない、ゴミも拾えない、ご飯もお茶も満足にできない。このままでは鬱になってしまうと思って、生後1カ月に満たない時から、毎日のように歩いて子育て支援センターに通いました。子育て支援センターに行けば、「トイレに行っている間、赤ちゃんを見てもらえますか?」とお願いできる人や、私の話を「うんうん」と聞いてくれる「近所のおばちゃん」のような職員の方々がいました。母乳が出ず「私はダメ母だ」と自分を責めて本当に辛かった経験と、その時にお世話になった子育て支援センター、そして話を聞いてくれた「おばちゃん」達への感謝の思いが今の活動につながっています。
それに、長男の育児の時に近所にできたママ友と話をするうちに、それまでつらく苦しかった育児が、ぐっと楽しくなったのです。ママ友の大切さ、誰かと育児について話すことの大切さを実感したことから、人と繋がり、おしゃべりをすることで気持ちが楽になるママが多いのではないかと思いました。
ー実際に活動を始められていかがでしたか?
初めはフリーペーパーに案内を出しても、2~3人の参加だったのが、だんだんと増えていき、本当にたくさんのママが「お茶会」に来てくださいました。最初は緊張した面持ちのママさんも、帰って行く時にはピカピカの笑顔に。その瞬間がたまらなく嬉しかったです。当時は、自分の子育ても大変でしたが、その嬉しさが一番の育児のパワーの源でしたね。今は「せかままCafé」で、インターネットを利用しておしゃべり会を開催していますが、インターネットでも終わるときには、私も含めみんなピカピカの笑顔になるのが分かります。その瞬間がやっぱりたまりません。
ー逆に苦労している点はありますか?
まだまだ「せかままCafé」に参加してくださる方が少ないので、それが悩みです。時差もあるし、リアルの場より参加するのに勇気が必要なこと、それにお茶も出せない(笑)、いろんな課題がありますが、ひとつひとつクリアしていけたらと思っています。ただあまり焦らず、必要だと感じた方に情報が届いて、少しずつでも参加してくださる方が増えていったらいいかなと思っています!
また、今は参加無料で「せかままCafé」を開催していますが、ZOOM(オンラインミーティングのためのソフトウェア)の使用料がかかっているので、マイナス経営になっています。なので、改善策を探しています。また、「世界のママが集まるオンラインカフェ」のfacebookグループも、もっと活発なコミュニケーションの場になったら、と思っています。
ー今後の計画ややりたいことをお聞かせください。
ママ同士のたわいないおしゃべりは勿論、夫婦関係、女性の生き方、性教育、海外ならではの育児の悩み、などを一緒に考えていく場を作りたいです。また、色んな助産師さん、ドゥーラさんなどと出産について対談し、「出産を楽しみ」に思う人が増えてほしい、と思っています。いつか遠い未来には、自分の力(人を繋ぐのが得意)と経験を活かして、様々な人生背景や専門知識をもったママ同士が共に学び合い、且つボランティアではなく自分自身のビジネスにできる場を作りたいと考えています。
ー最後に、世界中のキャリアに悩む駐妻に向けてメッセージをお願いします。
私は助産師なので、帰国後も仕事は見つかるという安心感があり、駐在中のキャリアにはどちらかというと無頓着なのかもしれません。「せっかく助産師だし」「時間があるし」という理由で、思いついたボランティア活動に割と簡単な気持ちで挑戦してきました。ただ、改めて感じるのは、それがすごく良かった。大切なことは人と比べないことです。「子どもを預けてまで皆さんのようにやりたいことがない」「みんな楽しそう」とふさぎこむママ、焦っているママは多いです。そしてそんな焦っている自分に疲れ果てているママもいます。私にもその気持ちはよく分かります。でも、「そのままで良いんだよ」「子どもが元気に生きているだけで、あなたはものすごい仕事をしている」と私は言いたいです。駐在中ずっと悩んでいても日本に帰ってからやりがいのある仕事を見つけた方がいました。たとえ鬱になって日本に帰ったとしても、やっぱり駐在先での経験は長い目で見たら無駄ではないです。自分に素直に、心を開いて、自分らしく生きればいいと思うんです。夫の駐在に伴って海外に住むということ自体が、言葉では簡単に言い尽くせない、とても大きなキャリアだと思っています。
<インタビューボランティア紹介>
今回、インタビューボランティアとして駐妻キャリアnet会員の山本恭子さんに 原稿の執筆をお願い致しました。ボランティアメンバーのご紹介はこちら:ボランティアメンバー紹介ページ
<インタビューを終えてみて>
私は引っ越しを6月に控えた、駐妻予備軍です。これからの駐在生活に不安しかなかったのですが、インタビューで直子さんや駐妻キャリアネットの久恵さんとお話する中で、どんどん心が軽くなりました。駐在中は、何かに積極的に取り組んでもいいし、何にもせずに過ごしてもいい。人と比べて悩むのではなく、自分のしたいように生きればいい。どんなことをして過ごしても、必ず人生においてはプラスにつながるはずというお話が心に深く刺さり、インタビュー終了時には完全に前向きな気持ちに。リアルに“おしゃべり”で救われました。たかがおしゃべり、されどおしゃべり。リアルでも、オンラインでも、おしゃべりには変わらない力があると、直子さんの活動の偉大さを体感した時間でした。
(担当:山本恭子、大渕久恵)
西川直子
愛知県瀬戸市出身。1月1日生まれ。新卒で人材派遣会社に就職した後、再度大学に4年通い、「助産師」「保健師」「看護師」の免許を取得。助産師3年目の時に長男を出産。その後、ご主人の駐在でタイへ引っ越し、次男を出産。まもなく自身の経験から、子育て支援センターのような場所をつくりたいという思いで、自宅で「お茶会」を開催するように。タイにいた4年間で実施した「お茶会」は200回にも及ぶ。最近は無料でインターネット上でおしゃべりできる「世界のママが集まるオンラインカフェ」、略して「せかままCafe」をスタート。ご主人の駐在でタイの後は、イギリス、スペインと場所を変えながらも、育児支援や勉強会のボランティア活動を多角的に展開している。
世界のママが集まるオンラインカフェ