駐在生活での多様なライフスタイルが魅力になるキャリア – インテリアデザイナー 岡部美津子さん
駐妻のキャリアについて、気になる人にインタビュー。
第10回目は、駐在中の学びがきっかけとなり、子育てがひと段落し、帰国した日本で「生涯の仕事」に向けて学び直し、現在はインテリアデザイナーとして活躍されている岡部美津子さんにお話をお伺いしました。
ー こんにちは!まずは簡単な自己紹介をお願いできますか?
こんにちは、岡部美津子です。
海外では“Mitsuko”と呼ばれ、ほぼ“屋号”のようになっております。
アメリカ・カナダ・ブラジルと駐在帯同を経た後、40代半ばでインテリアデザイナーを目指し、起業、そして2度目のブラジル、現在はシンガポールと、帯同の歴史を刻みながら仕事を続けております。このような私の体験談がどなたかのお役に立てるようであれば大変嬉しく思います。
インテリアデザイナーとしての起点となったのは、1回目のブラジル駐在より帰国した時、子育てが一段落したこともあり、 “生涯の仕事”を念頭に学校に通い始め、インテリアデザインを学んだことでした。それまでも駐在地で学ぶ機会はあったのですが、プロを目指したのはこの時からでした。
卒業後、仕事をしながらインストラクションの勉強を始め、2年後に講師の認定取得。自営で住宅や商業スペースのインテリアプランニングをする傍ら、学校や企業で講師をしていくようになりました。
その後、約9年間、もう海外駐在はないものと150%仕事に邁進していたところ、再びブラジル駐在の話が…、悩みに悩んだ末、「いざという時、優先すべきは家族」と、帯同することにしました。
当初はキャリアを断ってしまったような思いになりましたが、ブラジルでの思いがけない出会いや機会が、新たなキャリアの構築にも繋がりました。約4年間のブラジル駐在を経て、昨年末よりシンガポールに帯同、現在、日本の仕事をしながらシンガポールでの活動を模索中です。
ー 駐在地で学ぶ機会があったとのことですが、どこで、どのようなことを学ばれたのですか?
カナダ赴任時は子育て真最中でしたので、仕事への意識はなかったのですが、“英語を学ぶ手段として何かを学ぶ”ことを思い立ち、楽しく続ける為に自分にとって興味深いものはなんだろうと考えたのがきっかけでした。
そのような中、オープンカレッジの社会人向けプログラムに「色彩と社会生活」というようなテーマの講座を見つけ、何やらよくわからない、と思いながらも、「色彩」も「生活」も、身の周りにあることなので、きっと興味の湧くものに違いないと信じ、学ぶことにしました。
実際、この講座での学びがとても新鮮で楽しく、その後も機会があるごとに「西洋生活文化史」や「建築美術史」など、現在の職能につながる内容を学びました。
1回目のブラジル赴任時は、私たち家族の住まいが個人の住まいであると同時に、同じ会社の方々の集まる場であったり、現地の取引先のお客様を招く場であったり…と、パブリックの場でもあったことから、個人の好みだけではなく、目的に合ったインテリアになるよう、プロのインテリアデザイナーと一緒にインテリアを作った経験が大きな学びとなったような気がします。その後も常に「招く」ことを意識しながら、自宅インテリアに手を入れていたことが今に繋がったかもしれません。それでも当時はまだ仕事への意識はありませんでしたが。
ー 帰国後、どのようにインテリアデザインを仕事にしようと思ったのでしょうか?
生涯の仕事をしていきたいと思った時、すでに40代半ばでしたので、 年齢を重ねても色あせない、今までの経験値が魅力となる職業が良いと考えました。
これまでの歩みで、自分が最も成熟できていることは何だろう、そして長く続けられることは何だろう…と。
そんな時、偶然、雑誌で「日本に“インテリアコーディネーター”という職業を築いた町田ひろ子氏」のインタビュー記事を目にし、そこで述べられていたインテリアコーディネーターの「職能」にショックを覚えたのです。
(今でこそ当たり前に聞く言葉ですが、当時は一般的ではなかった)「ライフスタイル」と言う概念と、個々のライフスタイルに即し、インテリアを具現化するという仕事・・・「これだ!」と思いました。
これまでの歩みで私が一番成熟できているのは「生活」であったと…、
招くことも招かれることも多かった海外でのライフスタイルは、常にお客様に喜んでもらえることを考えていたではないか…、
振り返ってみれば何かを学ぶ時も選択する時も「生活」という言葉周辺で決断していたではないか…、
生活は永遠、しかもこれまでの経験がそのまま活かされる・・・全てがそこに集約するような瞬間でした。
翌日、さっそく町田ひろ子アカデミー東京校に入学願書を届け、その数週間後には経験したことのない険しい学びの日々へと突入していったのでした。笑
ー プロを目指す学校での学びは厳しそうですね。
学校を卒業され、現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか?
また、今までの駐在生活がお仕事で活かされているエピソードがあったら教えてください。
シンガポールではまだ手探り中で、現在は日本からの仕事をしています。
店舗のリニューアルデザインや住宅関連会社の研修資料の監修など、時に日本とシンガポールを行き来しながら、または、日本でチームを組み、その時々の適任者が受け持つというようなスタイルでやっています。
その一方で、継続的に取り組んでいるのが、“漆を新しい形で活用していくプロジェクト”です。
伝統工芸としての漆だけではなく、 “現代のライススタイルに合った漆の活用をしていく”「Rhus Project」
で、これまでにない新しい漆素材や漆作品を海外展示会に出展したり、国内外の様々な媒体で、活動内容や作品を紹介しています。
仕事に於いて、駐在生活が活かされる場面は計り知れません。
その国の生活文化を肌で体験すること、多様なライフスタイルを目の当たりにすること、、、その分引き出しが増えていくわけですから。
特にインテリアに於いては欧米の正統スタイルを日常で見ることができ、それまでに学んできたことが、より一層咀嚼されました。これらは後から気付くことが多いのですが、貴重な体験であったと思います。
具体的なエピソードとしては、ベルギーから帰国されたご夫婦のマンションリフォームの話があります。「ベルギーから持ち帰った伝統家具と調度品がどうやっても空間に調和しない」とのSOSから始まった仕事でした。結論として、日本のマンションでは空間の構成も天井高も建具の装飾も、欧米とは全く異なるので、ベルギーでの調和を実現できるわけがなかったのです。
それを具体的な解決策を持って指摘できたことは、住まい手の本当の満足へ繋がりました。
ー 海外での生活が経験となり引き出しが増える、、、素晴らしい言葉で、キャリアを考える際の参考になります! 最後に、現在駐妻、プレ駐妻の方々へメッセージをお願いします。
帯同によって、キャリアの断念・中断、と言った被害者意識をつい抱きがちですが、では帯同しなければ順調に進んでいたかと言うとそれもわからないことだと思っています。
「継続」を基準にするとネガティブになってしまいますが、「軌道修正」と思うとポジティブになれるような気がしています。
私も自分で決断しておきながら、時に夫の言動によって「私ばかりが左右されて…」などと思ったり言ったりすることがありますが、必ずしもそうではないことを本当は自分自身が一番よくわかっています。
2度目のブラジル帯同を決めた時、順調に軌道している仕事を手放さなくてはならないことに、断腸の思いがありましたが、ブラジルでの思いがけない出会いや状況によって、予想だにしなかった新たな切り口ができました。自分の考えやイメージだけで進むより、想定外のところに新たなスキルやスタンスができることを実感しています。
変化を楽しむと言うとキレイ事に聞こえますが、変化を次のステップと考えると進化に繋がるのかもしれません。今、世の中がとても不確実でもあり、社会的価値観やシステムがどんどん変わっているので特にそう思います。
私自身、未だに変化に翻弄されている真っ最中ですが「来年の今頃どうなっているかしら」などと思いながら、なりたい自分のイメージを持ち続け、変化によって進化させたいと願う日々です。
<インタビューを終えてみて>
「住まい手の日常を能動的にするインテリアプランニングとその啓蒙」という岡部さん。
ブラジル駐在中にお会いした際に、プロ意識の高さと活力溢れた素敵な姿に惹かれ、インタビューをお願いしました。今回、改めて仕事を始められたきっかけなどをお聞きすることができ、駐在経験を活かしたキャリアの考え方に触れることができました。「引き出しを増やす」・「帯同期間をキャリアの軌道修正とポジティブに考える」・「変化を次のステップと考え進化に繋げる」、などのワードはキャリアを考える多くの駐妻へのヒントになるのではないでしょうか! (担当:秋元かおる・大渕久恵)
岡部 美津子
Mデザインワークス主宰。インテリアデザイナー、町田ひろこアカデミー講師、企業研修講師、Rhus Project副代表。 自動車メーカー勤務後、結婚。北米・南米駐在を経て、40代半ばでインテリアデザイナーを目指し、町田ひろ子アカデミーにて学ぶ。2年後同校にてインストラクター認定取得、インテリアデザインワークスと講師業を並行する。その後、2度目のブラジル駐在を経て現在シンガポール在住。 インテリアプランニングに於いては、目的やライフスタイルに寄り添いながらも、潜在を引き出し、美しく心地のよい空間提案をモットーとし、様々な国での生活体験を生かした多様なプランニングを得意とする。 Rhus Projectでの取り組みに参画、国内外への発信、漆プロダクトのデザイン、インテリアへの活用を手がける。
Rhus Project
「9000年繋がってきた漆と技術を現代のライフスタイルに活用する」