【駐妻キャリア総研・研究結果報告】帯同中のボランティア・プロボノ活動について -大半が無償の活動だが、93.5%が満足している理由とは-
これまでの調査から、帯同中にボランティアやプロボノ(※)活動に取り組むことで社会とのつながりを維持したり、スキルアップを叶えている方が多くいらっしゃることが分かりました。
一方、自分に合った活動ってどうやって見つけるの?どのくらいコミットするの?再就職に役立つの?など、疑問・不安の声も聴かれます。
そこで今回は、「帯同中のボランティア・プロボノ」をテーマにアンケート調査を行った結果をご報告します。回答者の皆様からの貴重な経験談や意見を紹介していますので、これからボランティア・プロボノ活動に取り組む上での・取り組んできた活動を次に活かす上でのヒントになれば幸いです。
(※)プロボノ(pro bono):職業上のスキルや経験を生かして取り組む社会貢献活動
調査結果概要
- 9割以上がボランティア、プロボノ活動に関心。約3/4が活動経験あり。
- 現地のNPOやNGOでの支援活動、駐在帯同家族向けのコミュニティ運営や情報発信、こどもの教育・学校関連、日本語学習者へのサポート、日本の企業や組織でのフルリモート活動、趣味や得意を活かした活動など、各国の駐妻が幅広い領域で活動している。
- 8割以上が無償で活動。時給3000円程度以上に相当するような、リーダー業務や事業の中核、専門性の高い内容に従事しているケースも少なくない。また、約6割が、活動に当たっての経費を自己負担していた。
- 93.5%が活動に満足。7割以上が、帯同中のボランティア・プロボノ活動は帰国後のキャリアにつながると感じている。
- 新たな学びやスキルの向上、貴重な人脈など、活動で得られた価値・財産について、多くの具体的なコメントが寄せられた。一方、ビザ規定上無償ボランティアしかできない、やりがいや専門性の搾取につながっているのでは、と活動の無償性を問題視する声も集まった。
- 活動によって、自己肯定感や人生への意欲の高まりも期待できる。帯同中の活動を「ここでしかできない経験」「人生の中でも貴重な時間」「喜ぶ顔が見られる第三の居場所」にするためには、参加の動機や目的の明確化、組織側とのすり合わせも重要と考えられる。
目次
ボランティア・プロボノ活動への関心、参画状況
※「ない」の回答は0%
回答者の90%以上が、帯同中のボランティア・プロボノ活動に関心を持っている(関心が「かなりある」、「ある」、「少しある」の合計:92.7%)。
約3/4が、帯同中のボランティア・プロボノ活動に取り組んだ経験があると回答した。これから取り組む予定がある人も4.9%いた。
なぜ?何をする?どう見つける?活動のきっかけ、活動内容
※30名から47件の活動について回答があった。(n=30)
取り組んでいる活動の内容については、30名から47件の回答が寄せられた。現地のNPOやNGOでの支援活動、駐在帯同家族向けのコミュニティ運営や情報発信、こどもの教育・学校関連、日本語を学ぶ外国人へのサポート、日本の企業や組織でのフルリモート活動、趣味や得意を活かした活動など、各国の駐妻が幅広い領域で活動していることが分かった。
※特に当てはまるものを「3つまで」選択する形式とした。(n=32)
帰国後のキャリアやスキルの維持・向上よりも、社会とのつながりの維持や地域・社会に貢献したい思いが活動の動機になるケースが多いようである。
※特に当てはまるものを全て選択する形式とした。(n=32)
取り組む活動を見つける経路は様々であるが、各団体・組織が発信する募集情報、SNS、知人経由で情報を入手したとの回答が多かった。「その他」はこどもの学校関連、自身で団体設立など。
特にコロナ禍以降は、リモートで参画できる活動、時間の融通が利きやすい・活動の自由度が高い内容も増え、各地のボランティアやプロボノ活動をスムーズに検索・マッチングできるポータルサイトも整備されてきている。帯同先での地域活動に限らず、日本の団体・組織の募集情報や、自身の関心や強みを活かせる活動についての情報収集も容易になってきているといえる。
活動の報酬は?
※交通費や必要経費のみ支給されるものを「原則無償」と想定。
※複数の活動経験がある方もいるため、複数回答可としている。31名から35件の回答。
回答のあった活動のうち、8割以上が「無償」(完全無償または原則無償)であった。「報酬あり」の場合も、その金額は時給換算1500円程度未満が大半である。「その他」としては、当初無償だったが後に有報酬に切り替えとなったケース、金銭以外の報酬(物品や飲食物)を受け取っているケースがあった。
※交通費や必要経費のみ支給されるものを「原則無償」と想定。
※複数の活動経験がある方もいるため、複数回答可としている。30名から38件の回答。
取り組んできた活動は本来どの程度の報酬に相当すると思うかについても質問した。「無償相当」または「原則無償相当」、「時給1000〜2000円程度」、「時給3000円程度以上」と、回答が大きく三分されている点が特徴的である。
「時給3000円程度以上」と回答した人の多くは、責任が伴うリーダー業務や事業の中核、専門性の高い内容(有資格者含む)に従事しているか、複数の活動に取り組んでいるようであった。
※30名、32件の回答を分析。
自己負担経費が「発生しない」と回答した人は約4割で、約6割が、活動に当たっての経費を手出しで負担している実態が浮かび上がった。主な経費の内容は、交通費、通信費、交際費、活動のための勉強費用などであった。
経費が発生していたとしても、そもそも有報酬の仕事として従事しているわけではないため、確定申告での経費計上の対象にもならないものと思われる。
帰国後のキャリアとの関連、活動の満足度
回答者の7割以上が、帯同中のボランティア・プロボノ活動は帰国後のキャリアにつながると感じていた(「とてもつながると思う」、「つながると思う」、「多少つながると思う」の合計:71.9%)。実際に、キャリアにつながる貴重な学びが得られた、帰国後の就職活動に役立った、ライフワークにつながった、という声も複数聴かれた。
一方、つながる度合いは「多少」との回答が最多(37.5%)で、「とてもつながると思う」、「つながると思う」との回答は合計34.4%であり、必ずしも帰国後のキャリアが活動継続の動機・目的になっているわけではないものと思われる。
帯同中の活動がキャリアにつながると思うと回答した人の割合と比較すると、活動への満足度は非常に高く、6割以上が「とても満足している」または「満足している」と回答した。「少し満足している」も含めると、満足している割合は90%を超える(93.5%)が、満足している点がある一方、不満に感じる点もある人もいるようであった。満足・不満足の具体的な理由は以下リンクを参照。
*寄せられたフリーコメント*
(分類)
【満足している理由】
・喜ばれる、役に立てる
・社会とのつながり、出会い
・活動での学び、スキルの維持・向上、キャリアへのつながり
【満足していない理由】
フリーコメント
帯同中のボランティア・プロボノ活動に関する感想や意見など、寄せられたフリーコメントを紹介する。
新たな学びやスキルの向上、貴重な人脈など、活動で得られた価値・財産について、多くの具体的なコメントが寄せられた。一方、ビザ規定上無償ボランティアしかできない、やりがいや専門性の搾取につながっているのでは、との声も集まった。
*寄せられたフリーコメント*
(分類)
〇活動で得られた価値、財産
〇活動の感想
〇活動の制約、要望
〇報酬、ビザについて
今回のアンケートでは、帯同中のボランティア・プロボノ活動に取り組んだ経験のない方からの回答も募ることができた。
活動への関心はあるものの、自身のスキルや経験が活かせる活動を見つけるハードル、育児や他に取り組んでいることとの両立、活動時間や報酬の問題などがネックになっているようであった。
*寄せられたフリーコメント(一部抜粋)
・育児中でまとまった時間の捻出が難しい。空き時間にスマホでできることならやれそうだが、やるからには責任が伴うし、かえって皆さんに迷惑をかけるのが心配。
・興味はありつつも、自分のキャリアが活かせて本帰国後のキャリアにプラスになる経験ができるのか分からず、いまいち踏み出せない。
考察
ボランティアに取り組む動機や効果については様々な研究がなされており、活動によって自己肯定感や人生への意欲が高まるという考察もある。たとえば、ClaryらによるVFIモデル(ボランティア動機を評価する尺度)では、ボランティア参加の動機は大きく以下の6つに分けられるという。ボランティア活動には、社会貢献、学びの獲得やキャリア開発以外にも、精神面へのポジティブな影響、生活や人生の広がりなどの効果も期待できると考えられる。
〜ClaryらによるVFI(the Volunteer Functions Inventory)モデル〜 ①価値機能(value) :活動によって価値観や主義を表現、行動 ②知識機能(understanding):活動が社会勉強や人生経験としてプラスであるという認識 ③社会的機能(social) :活動によって他者と触れ合う、社交 ④経歴機能(career) :知識や技術、能力の獲得、キャリア開発への期待 ⑤防衛機能(protective) :コンプレックスやストレスから離れる機会 ⑥強化機能(enhancememt):自尊心や自己肯定感を高める |
一方、今回の調査では、ボランティア活動の無償性を問題視する声も多く集まっている。「駐妻」という立場上、就労や活動に制約もあり、「無償ボランティアしか選択肢がない」「やらないといけないのが実情」「働けない駐妻のやりがい搾取では」という人もいた。活動への満足感も、一部は「認知的不協和」状態(犠牲を払って活動しているのに報酬が得られないという矛盾による不快感を回避するため、無意識的に満足の理由を見つけて正当化する心理メカニズム)の可能性も考えられる。
「ボランティア=無償で当然」という感覚、やりがいや専門性の搾取は、モチベーションやパフォーマンスの低下に加え、業界全体の価値や競争力の低下を招きうるともいえる。ボランティアは本来気軽に使える安価な労働力では決してなく、組織や社会を良くするための同じ志を持ったパートナーであり、受け入れる組織・参加する側・そして社会のどれもにとってプラスになる、いわば三方よし的な関係性を目指すことが求められる。また、良い社会活動をつくる上では、各人が当事者意識を持つことや、様々な立場の人が持つ想い・スキルを結集し有機的に昇華させることが重要といえる。
駐妻たちがスキルや意欲を発揮しながら他者や組織・社会に貢献できる状態を実現するため、そして活動を持続可能なかたちで発展させていくためには、組織や社会の意識改革、待遇改善を期待するのはもちろんのこと、参加する側も、参加の動機や目的を明確に持つこと、活動のビジョンや自身の責任範囲を十分認識・共有することが大切なのかもしれない。
帯同中の活動が、自己犠牲や疲弊ではなく、「ここでしかできない経験」「人生の中でも貴重な時間」「喜ぶ顔が見られる第三の居場所」になり、その幸せが自己から他者、そして社会へと広がっていくことを願いたい。
※引用・参考
桜井政成(2002).複数動機アプローチによるボランティア参加動機構造の分析
―京都市域のボランティアを対象とした調査より―,The Nonprofit Review, Vol.2, No.2, 111–122
上床幸太(2023).ボランティアの参加動機と年齢の関連からみる青年期以降の向社会的動機づけ―
青年期までの発達プロセスとの比較―,大阪商業大学教職課程委員会
調査概要
- 調査手法 :WEBアンケート(無記名式)
- 有効回答者数:41名
- 調査実施日 :2024年5月25日(土)~2024年6月9日(日)まで
- 調査対象者 :配偶者の海外勤務や海外留学への帯同経験のある方、これから帯同する方
※駐妻キャリアnet非会員、男性(駐夫等)、国際結婚をされた方も対象
(回答者属性)
※全回答者の78%が駐妻キャリアnet会員であった。
※全回答者の68.3%が駐妻(帯同中)、24.4%が元駐妻であった。